東京高等裁判所 平成3年(行ケ)251号 判決
ドイツ連邦共和国ベルリン及びミュンヘン
原告
シーメンス アクチエン ゲゼルシヤフト
代表者
アルベルト ワルドルフ
カールハインツ フイツケンシヤー
訴訟代理人弁理士
富村潔
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
麻生渡
指定代理人
木梨貞男
同
飛鳥井春雄
同
奥村寿一
同
田辺秀三
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成2年審判第15129号事件について平成3年5月15日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文1、2項と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「半導体装置の容器組込方法」とする発明について、1980年1月17日ドイツ連邦共和国における特許出願に基づくパリ条約4条の優先権を主張して、昭和56年1月16日特許出願をしたところ、平成2年4月16日拒絶査定を受けたので、同年8月21日審判を請求した。特許庁は、上記請求を平成2年審判第15129号事件として審理した結果、平成3年5月15日、上記請求は成り立たない、とする審決をした。なお、出訴期間として90日が附加された。
2 本願発明の要旨
「銀粒子を添加した有機絶縁材料からなる接着剤を使用して、半導体装置のシリコンからなる半導体素体を基台及び放熱体として用いる容器部分と結合することにより半導体装置を容器内に組み込む方法において、接着剤を塗布する前に、半導体素体の下側をまずクロム層で覆い、次いでクロム層の上を直接銀層で覆うことを特徴とする半導体装置の容器組込方法」
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) 本願出願前に頒布された刊行物には、以下の記載がある。
a 引用例1(特開昭49-40673号公報)には、半導体素子の裏面に、半導体素子と密着性のよいクロムなどの活性金属薄膜を形成し、次いでこの薄膜の上に、密着性がよく、しかも電気伝導性のよい銀の層を形成し、該半導体素子を半田層を介して電極に接着すること(1頁右下欄11行~2頁右上欄1行)。
b 引用例2(特開昭51-58868号公報)には、半導体チップを接着する接着剤に、銀の微粉末を添加すること(1頁左下欄4~6行、2頁左上欄15~18行)。
(3) 本願発明と引用発明1を対比すると、引用例1記載の「電極」は、「基台及び放熱体として用いる容器部分」ということができるから、両者は、「半導体装置のシリコンからなる半導体素体を基台および放熱体として用いる容器部分と結合することにより半導体装置を容器内に組み込む方法において、接着する前に、半導体素体の下側をまずクロム層で覆い、次いでクロム層の上を直接銀層で覆う半導体装置の容器組込方法」に関する点で共通している。
本願発明が、銀粒子を添加した有機絶縁材料からなる接着剤を使用することを構成要件としているのに対し、引用例1にはこの点が記載されていない点で両者は、一応相違する。
(4) 相違点についてみると、半導体素子の接着手段として、ろう付け及び接着剤による接着は適宜使い分けながら慣用されているものであり、しかも銀粒子を添加した有機絶縁材料からなる接着剤を使用することが、引用例2に記載され、さらに該銀粒子を含む接着剤が、接着剤のみのものよりも熱伝導性や電気伝導性に優れることは自明であるから、引用例1に記載のものにおける半田によるろう付けに代えて、一定の熱伝導性を有する接着手段として、引用例2に記載の接着剤を用いることは、当業者が格別の創意を要することなく想到することにすぎない。
(5) したがって、本願発明は、各引用例に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項により特許を受けることができない。
4 審決の取消事由
審決の理由の要点(1)ないし(3)は認めるが、同(4)、(5)は争う。審決は、相違点に対する判断を誤るとともに、本願発明の顕著な作用効果を看過した各違法があるから、取消しを免れない。
(1) 相違点に対する判断の誤り(取消事由(1))
引用例1には、半導体素子の裏面に活性金属膜、非酸化性導電物質の層をそれぞれ真空蒸着法で形成することが記載されている。一方、引用例2には、「半田付け法は半導体チップおよび基板上にそれぞれ金を蒸着したのち、半導体チップを半田付けするものであるが、この方法も金の蒸着工程などが不可欠である点で前記と同様の欠点がある。」(329頁右欄3行ないし7行)と記載され、さらに「本発明の目的は、上記従来技術の欠点を除去し金めっき、蒸着等の煩雑な接合工程を要することなく、・・・半導体装置の製造方法を提供することにある。」(329頁右欄下から7行ないし1行)と記載され、同引用例においては、蒸着法は欠点のある技術として半導体装置の製造においては避けるべきものとして認識されている。
そうすると、引用例1の技術を出発点として、引用例2の技術を知る当業者が、本願発明に到達するためには、同引用例において否定的に取り扱われている真空蒸着法を使用するか否かを決定しなければならない。その上で、半導体素子の裏面に設ける第1の層としてチタン、モリブデン、クロム、バナジウムのうちからクロムを選択して、半導体素子上に被着させなければならない。次いで、クロム層上に直接接着剤を設けるかクロム層と接着剤との間に別の層を介在させるかを決定しなければならない。ここでクロム層上に銀層を設けることを決定する場合、引用例2において好ましくないとされる真空蒸着法を使用することも決定しなければならない。次いで、引用例2において熱伝導を良くするために樹脂に添加する微粉末として挙げられているアルミナ、ジルコン、石英ガラス、ボロンナイトライド、炭酸カルシウム、タルクを接着剤に添加しないことを決定しなければならない。そして、その代わりに引用例2においては、基板と半導体とを導通させるために添加する微粉末として挙げられている金、銀、白金から熱伝導を良くするための微粉末として銀を選択しなければならない(なお、被告の後記主張のように、銀が非常に熱伝導性の良い材料であることが当業者の常識であることは争わない。)。最後に、電極の半導体素子側を金、銀、銅のような導電物質で被覆しないことを決定しなければならない。また、引用例2を出発点として、引用例1の技術を知る当業者が、本願発明に到達するためには、特に引用例2における真空蒸着法は避けるべきであるという技術思想を否定しなければならないのである。
以上のように、引用例1、2を組み合わせる上において、互いに衝突する技術思想が存在し、また、多数の選択肢があり、どのような材料、どのような製造工程を選択するかに多数の考慮を必要とすることが明らかであることからすると、当業者といえども、上記各引用例から本願発明を容易に想到し得るものではないから、審決の相違点に関する判断は誤っている。なお、本願発明が導電性接着剤法の一つであることは認める。
(2) 顕著な作用効果の看過(取消事由(2))
引用発明1においては、半田層を使用するため、半導体素子に被着した銀層との密着性を良好にするための熱処理を必要とし、さらに半導体素子を電極上にろう付けする場合には高温に加熱しなければならず、また、交番負荷によってろう層は疲労し故障につながる可能性がある。これに対し、本願発明は、接着時に高温の熱処理を必要とせず、交番負荷においても疲労を生じない。
引用発明2は、半導体チップに接着剤が直接接触しているが、両者間の熱的、機械的結合が必ずしも十分ではない。これに対し、本願発明は、銀粒子を添加した接着剤が銀層と接触しているため、銀層の表面と接着剤の銀粒子とが接触し、半導体素体と接着剤、ひいては半導体素体と容器部分との良好な熱的、機械的結合を得ることができる。
以上のように、本願発明は、各引用例に対して、格別な効果を奏するものであるから、これを看過した審決は違法である。
3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因に対する認否
請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断に原告主張の違法はない。
2 反論
(1) 取消事由(1)について
原告は、引用例2においては、真空蒸着法は欠点のある技術として半導体装置の製造においては避けるべきものとして認識されていると主張するが、失当である。すなわち、引用発明2が金属層を被着させずに半導体チップを接着しているのは、特に芳香族ポリイミド系樹脂接着剤を用いた場合には、それのみで実用に供し得るだけの接着強度が得られるからにほかならず、金属層の被着を全面的に否定したものではない。また、芳香族ポリイミド系樹脂接着剤以外の場合には、金属層の被着を省略できないことはいうまでもない。しかも、本願発明と同じく金属粒子を添加した有機絶縁材料からなる接着剤(導電ペースト)を用いる場合において、半田付け法で素体の表面を被覆する金属層と同種の金属層でその素体の表面を覆うことは、通常行われていることである。このことは、例えば、導電性接着剤法において、チップ裏面は、Siは不可で、めっきや蒸着を施す必要があることが乙第1号証37頁表5・2に明記されていること、及び、引用例2の従来技術の説明(1頁左欄12行ないし右欄13行)において、「半田付け法は半導体チップ及び基板上にそれぞれ金を蒸着した後、半導体チップを半田付けするものである」、「またエポキシ系導電ペーストを用いる方法は、半導体チップ及び基板上にそれぞれ金めっきを施したのち、エポキシ導電ペーストを用いて両者を接合させるものである」とあり、導電ペーストを用いる方法における金めっきが、本願発明における銀層と同様の目的をもって設けられていることからも明らかである。
してみると、本願発明における接着剤と引用発明1における半田層とは、半導体素子を容器に接着するに当たっての均等手段ということができるものであって、このような均等手段を相互に置換することは当業者が日常的に行っているところである。審決の判断はこのような技術水準を前提として、さらに、クロム層、銀層(銀が非常に熱伝導性の良い材料であることは、当業者の常識である。)を設ける理由において、本願発明と引用発明1との間において、格別の差異がないことを合わせ考慮して、本願発明が引用発明1と同2に基づいて当業者が容易になし得るものであると判断したものである。
(2) 取消事由(2)について
原告主張の、引用発明1との比較における、(1)接着時に高温の熱処理を必要とせず、交番(繰り返し)負荷による疲労が生じないこと、また、引用発明2との比較における、(2)銀粒子を添加した接着剤が銀層と接着しているため、銀層の表面と接着剤の銀粒子とが接触し、半導体素体と接着剤ひいては半導体素体と容器部分との良好な熱的、機械的結合を得ることができる、との効果を奏すると主張している。
しかし、前記(1)の効果は、乙第1号証237頁表5・2においても、導電性接着剤法の利点として、作業が容易で、低温プロセスであることが記載されているように、加熱に伴う欠点がないことは、導電性接着剤法一般の共通する利点であり、本願発明の固有の効果とはいえない。また、前記(2)の効果は、「良好な機械的結合」といかなる程度を意味するか不明であるが、いずれにせよ銀粒子を添加した接着剤が金属層と接着しているため、金属層の表面と接着剤の銀粒子とが接触し、半導体素体と接着剤ひいては半導体素体と容器部分との良好な熱的、機械的結合を得ることができることは、導電性接着剤法全てに共通する利点であって、引用例2に記載の従来技術のように「半導体チップおよび基板上にそれぞれ金属めっきを施したのち、導電ペーストを用いて両者を接合する」ものにおいても共通してみられる効果であり、これも本願発明に固有の効果とはいえない。このことはさらに、乙第1号証において、ダイボンディング用接着剤に要求される性質として、接着強度が大であること、及び、電気及び熱伝導度が大きいことが挙げられている(238頁4行ないし27行)ことからも明らかである。以上のように、原告が主張する効果は、いずれも当業者が当然予想するものであって、本願発明特有の効果とはいえない。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1ないし3の事実並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点が審決摘示のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
2 本願発明の概要
成立に争いのない甲第3号証(平成2年2月5日付け手続補正書)によれば、本願発明の概要は、以下のとおりと認められ、他にこれを左右する証拠はない。
本願発明は、半導体装置を容器内に組み込むための方法に関する発明である。半導体装置を容器に組み込む際の従来の公知の技術においては、ろう層による方法、合金化法、接着剤法等が知られているが、接着剤法は、極めて熱放散が悪いため、消費電力の小さな系の組立てにしか使用できないという欠点があり、また、ろう付けあるいは合金化による場合は経済的に割高であるという他に、交番負荷によって疲労し、集積回路の故障を招く等の欠点を有していたものである。そこで、本願発明においては、半導体系の熱抵抗をろう付け法や合金化法の場合より大きくせず、また、長い交番負荷によっても低い熱抵抗が損なわれないという効果を得ることを可能とするため、前記本願発明の要旨記載の構成を採択したものである。
3 取消事由について
(1) 取消事由(1)
原告は、引用例2では、真空蒸着法は欠点ある技術とされているところ、引用例1を出発点として本願発明に到達するためには半導体素子の裏面に第1及び第2の各層を設けるに際して、上記のとおり欠点ある真空蒸着法を採用しなければならず、また、第1の層にクロムを、第2の層に銀を各種の金属の中から選択する点において、複数の思考過程を必要とし、当業者といえども容易に行い得るものではないと主張する。
そこで検討するに、成立に争いのない甲第5号証(引用例2)には、「従来、半導体装置の製造において基板上に半導体チツプまたはペレツト(中略)を接着、固定する方法には、Au-Si共晶法、半田付け法、エポキシ系導電ペーストによる方法などが知られている。Au-Si共晶法は、基板上に金めつき、または金箔を熱圧着して固定したのち、この金の上に半導体チップ(シリコン)をのせ、約450℃に加熱してAu-Si共晶を生成させて接合するものである。この方法は金めつきなどの煩雑な工程を必要とし、接合に高温度を要する等の欠点がある。また、半田付け法は半導体チツプおよび基板上にそれぞれ金を蒸着したのち、半導体チツプを半田付けするものであるが、この方法も金の蒸着工程などが不可欠である点で前記と同様の欠点がある。」(329頁左欄下から9行ないし右欄7行)との記載があることが認められ、この記載によれば、真空蒸着法には、金などの蒸着工程が煩雑であること、及び接合に高温度を要するなどの欠点があるものと認められる。
しかしながら、真空蒸着法の欠点を指摘する引用例2の上記記載があるとしても、審決は、半導体素子と基板を接続するに当たり、本願発明が、半導体素体の下側を、まず、クロム層で、次いで、銀層で、それぞれ覆うとしている構成を、引用発明1との一致点としていることは、前記当事者間に争いのない審決の理由の要点に照らして明らかなところであり、原告においても、上記一致点の認定については認めているところである。そうすると、原告の前記主張は、審決が引用発明1との一致点とした接着構造に関する構成について、接着方法として真空蒸着法の欠点等その実施に当たっての問題点を指摘したにとどまり、相違点の判断の誤りに関する主張としては失当といわざるをえない。
原告は、引用例2において熱伝導を良くするために樹脂に添加する微粉末としてアルミナ、ジルコン、石英ガラス等を接着剤に添加しないことを決定しなければならないとし、その上で、銀を選択することは容易ではないと主張するので、以下、この点について検討するに、前掲甲第5号証には、「(接着剤として用いられる)前記芳香族ポリイミド系樹脂には、基板と半導体とを導通させるために、金、銀、白金などの貴金属の微粉末(粒径0・1~1μ)を5~200重量部添加したり、また基板と半導体とを絶縁し、熱伝導をよくするために、アルミナ、ジルコン、石英ガラス、ボロンナイトライド、炭酸カルシウム、タルクなどの微粉末(粒径0・1~1μ)を5~200重量部添加することができる。本発明における芳香族ポリイミド系樹脂には、上記の他に安定剤、改質剤その他の添加物を添加しても差し支えない(「査支えない」は上記の誤記と認める。)。」(330頁左上欄下から6行ないし右上欄5行)との記載が認められるところ、この記載によれば、有機絶縁材料からなる接着剤に、基板と半導体との導通を良くするために、又は、絶縁し熱伝導を良くするために、それぞれ前記記載の各物質の中から適宜のものを添加微粉末として選択可能であることが具体的に物質を特定して開示されているものと解されるから、導通の良い添加物質として銀を選択することは容易であり、かつ、銀が熱伝導性にも優れていることは当業者に周知の事項であることは当事者間に争いがないから、導通及び熱伝導の観点から接着剤に添加する微粉末として銀を選択することが格別困難であるとすることはできないというべきであり、この点に関する原告主張も採用できない。
なお、付言するに、前掲甲第5号証(引用例2)及び成立に争いのない乙第1号証(1973年1月15日株式会社工業調査会発行、日本マイクロエレクトロニクス協会編「エレクトロニクス実装技術便覧」237頁表5・2「ダイボンディングの各種方式」、238頁)によれば、本願の出願前の従来技術において、半導体チップと基板とを接続する場合において、半田法と本願発明が採択する導電性接着剤法(この点は当事者間に争いがない。)とは共に接着方法として確立したものであり、それぞれ基板材料、作業温度等に応じて使い分けられていたところ、後者を用いる場合には、半導体チップの裏面をSi面とすることはできず、Si面にめっき又は蒸着等の方法により金属面を被着することを要するものと考えられており、また、前者を採用する場合においても、Si面にめっき又は蒸着等の方法により金属面を被着すること(前掲乙第1号証、238頁右欄5、6行には、被着する金属として、Ni、Ni-Au、Cr-Au等が挙げられている。)が必要であると考えられていた事実が認められ、この事実によれば、上記のいずれの方法においても、半導体素体の裏面にめっき、蒸着等の方法で金属を被着することを要する点において異ならなかったのであり、上記のいずれの方法を採用するかは、両者の方法の適応を考えて、適宜、使い分けられていたものということができるから、両者は半導体素体の基板への接着手段として、均等に用いられていたところの確立した手段ということができる。してみると、このような、本願出願前の技術常識を前提としてみると、引用例1を知る当業者が同2に示された接着剤法を組み合わせて、相違点の構成を想到することは容易というべきであるから、審決のこの点の判断に誤りがあるとすることはできない。
したがって、取消事由(1)は採用できない。
(2) 取消事由(2)
原告は、本願発明は、接着時に高温の熱処理を必要とせず、交番負荷においても疲労を生じないという顕著な効果を奏すると主張するので、以下、この点について検討する。
前掲乙第1号証によれば、従来広く活用されていた共晶合金法は高温作業であるため加熱による半導体や抵抗の特性変化等の問題があることから、かかる欠点を除くものとして、本願発明が採択する導電性接着剤法の応用が進んでいること、導電性接着剤法の利点は作業が容易であり、かつ、低温プロセスであること、及びこれらの事実は本出願前当業者間において周知であったことが認められ、この事実によれば、原告主張の前記効果は、導電性接着剤法一般に期待されるものであるから、かかる効果をもって本願発明に固有の効果ということはできない。
また、原告は、引用発明2は、半導体チップに直接接着剤が接触しているが、両者間の熱的、機械的結合が必ずしも十分ではないのに対し、本願発明は、銀粒子を添加した接着剤が銀層と接触しているため、銀層の表面と接着剤の銀粒子とが接触し、半導体素体と接着剤、ひいては半導体素体と容器部分との良好な熱的、機械的結合を得ることができると主張する。しかし、引用発明2の原告指摘の結合が十分ではないことを認めるに足りる証拠はないばかりか、かえって、前掲甲第2号証によれば、有機絶縁材料からなる接着剤として、引用発明2の芳香族ポリイミド系樹脂を用いた場合の接着強度及び耐熱性は極めて良好であることが認められ、この事実からすると、原告の前記主張はその前提事実が認められないのであるから、既に、その前提において失当といわざるを得ない。
そうすると、取消事由(2)も採用できない。
以上の次第であるから、審決に原告主張の違法はない。
4 よって、本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を、上告のための附加期間の定めについて同法158条2項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)